宇宙の果て~ホーキングの暗示

 むかし話のように語られている話がある。
頓知問答をする和尚がいて、大きなものを食べた話をする相手をことごとく退けて、しかもどんな相手にも同じ答えをして追い払ったという。あるときは餅屋にある餅を一気に食べたという者がいたり、家屋全体を飲み込んだという強者もいたしそれどころか日本国全てまるごと食したとか、究極的には宇宙全体を残さず吸収したとほら吹きも現れたが和尚はやはり同じ答えをしてけして負けることはなかった。それは常に「そういうお前さんをわしは飲込んだよ」という一言だった。

 こんな話をもち出したのは、この和尚のように誰も追随できない天才的宇宙物理学者について書きたかったからだ。

 それは和尚のように、壮大かつ無限大な宇宙をまるで手が届くようにイメージし、誰にとっても不思議な宇宙を語ることによって、現世が未来に託す夢ももろくも哀れな姿に変えながら、昨今のコロナウィルス侵襲をあたかも人類滅亡へのプロローグのように暗示しているからだ。

 ステーブン・ホーキングが亡くなって二年ほどになるが、いま直面している未曽有のコロナ禍で果たして我々人類が滅亡してしまう危機なのかが問われている。

 天才ともいわれるほどのホーキングは、若くして現代でもいまだ難病であるALS筋委縮性側索硬化症を発した。長く生きることは不可能かと思われたが、UP TODATE の医学水準が彼に可能な限りの命を与え続けて、神秘的なる宇宙もまるで寸法を測るように概念化し、我々人類の生き延びるべき未来図を語ってくれたのだ。
不自由な身体、そしてさらに発語までもが常人のようにままならない中、まただからこそ天才的ひらめきの理知なのかもしれないが、宇宙をも手中に入れながら、あたかも愚かな人類を和尚のように飲込み、怖ろしく正規に未来を予測した。

 ホーキングの宇宙理論はユニークかつ緻密である。人類誰もが宇宙の果てを知らない。それどころかかの和尚の空言のように‘限界’がわからない。

 ホーキングは、地球は、というか太陽系銀河系をも想定して近い未来に滅びると明示している。いま存在する人類だけがこの広い宇宙で生命体として身体的知的にも秀(ひい)でていると我々は思いがちだがホーキングによると、この地球における人類のような生命体は少なくとも数万は存在するというのだ。もちろん人類が誇る英知な生命体としてだ。その宇宙理論は、生命体にとっていずれ知性は邪魔になりお互いに暴発して滅びる運命にあり、最後に生き延びるのは単細胞の生命体だけだという。

 そういえば、果てしない(ホーキングは限りあるというが)宇宙にそれほどのこの人類いやこれを凌駕する知的生命体が存在しているのならSF 宇宙映画のごとく宇宙人のように遥か遠い惑星からも地球を戦攻してきてしかるべきだが所詮それは空想であって地球を攻め滅ぼす来襲は未だかつて現れていない。

 そんな凡人的な問いにいつかの講演会でホーキングは、自ら発語できないためコンピューターの人造語を駆使して、「知的生命体はいくつもあるがそれぞれに文明として発展を遂げると互いに衝突しあい自爆して、地球規模の星も滅びてしまい単細胞的生命体だけが何の助けも借りずに生き延びるのだ」と神の声さながらの機械音声で言い放ち、もはや現世を超えた存在の風貌のホーキングの言葉として重くそして儚く響いたのだった。

 ホーキングのこの暗示、提言はたしかにこの現世を認めたくはないが見事に言い当てている。

 昨今のコロナ禍だけではない。。もうすでに我が地球上では依然として冷戦のように不気味な対立だが一触即発的な緊張で世界がただただ保たれていて、‘北朝鮮’どころではなくどの国もそれなりに自爆や暴発するマグマを養(よう)しているではないか。

 ホーキングは、人類が未来に生き延びるためにはこの地球を見限って他の惑星にでも移り込む必要性があると明言しており、そしてその‘とき’は必ずやってくるとまるで遺言のように語っている。

 和尚の大食い話のように明るい未来ではないのだが、ふと自問すれば人類の存在、地球、太陽系、銀河系、限りあるとすれば宇宙の存在そのものが不可思議であり宇宙がひと呼吸するかの極めて短い刹那に我々人類は生かされているのだろうし、いずれは大食い和尚に食われてしまうほど哀れな知的?生命体なのだ。

 ホーキングがいま生きていたのなら、不安定な世界の状況そしてついにはこのコロナウイルス侵襲についていったい何を語るだろうか?
 (愛する地球そして名古屋~
          71歳の誕生日に)